新型ゴールドウイングの注目点に迫る(後編)

ダブルウィッシュボーンに死角なし?

ここまで、2回に渡って注目点をお伝えしてきた新ゴールドウイング。その外観を眺めていて驚くのは、フロントタイヤとエンジンの異様な接近っぷりではないだろうか。いうまでもなく、今回の大命題「車両のコンパクト化」の一環なわけだが、その立役者と言える存在こそ、新採用のダブルウィッシュボーン式フロントサスペンションなのである

前輪とエンジンの透間をギリギリまで詰められる

新型ゴールドウイングの大命題が「車体の軽量コンパクト化」なのは先に述べた。そして、そのハイライトと言えるのがフロントのダブルウィッシュボーン式サスペンションだ。車体をコンパクト化するためには、とにかくフロントタイヤとエンジンのクリアランスを詰めたい。

ならば、それを達成可能なフロントサスペンションにはどのような形式が考えられるのか……。ゼロベースで様々な形式を検討・試作(テレスコピック式はもちろん、ダブルウィッシュボーン以外の形式も試作したという)を検討した結果、浮上してきたのがダブルウィッシュボーン式サスペンションなのだ。

ダブルウィッシュボーンは周知のとおり、4輪では普及しているサスペンション方式で、新ゴールドウイングのフロントサスペンションは4輪用のそれに対し、タイヤの取り付け向きを90度変えたものと考えればいい。従来のバイクを基に考えるなら、ヘッドパイプをフロントフォークごとフレームから切り離し、2本のアームでフレームに再接続した……とでも例えればいいだろうか。

4輪の、特にスポーツカーや高級車ではメジャーなサスペンション形式であるダブルウィッシュボーン。ホンダの4輪車では旗艦モデルのNSXなどが採用している。上下2本のアームでホイールを支持するため、クッション(=ショックユニット)には伸縮方向以外の入力が入らず、設計する上でのアライメント設定(=ホイールがどんな軌跡を描いて上下動するか)の自由度も高い。

新型ゴールドウイングのダブルウィッシュボーン式フロントサスペンション。フロントフォーク&フロントフォークホルダーを介し、前輪を上下2本のアームで支持していることが分かる。

ダブルウィッシュボーンが選ばれたのは、アライメント設定の自由度が最大の要因だ。テレスコピックは構造上、斜め上方向にタイヤがストロークするため、エンジンとタイヤの干渉を防ぐのにある程度のクリアランスを必要とする。

しかしダブルウィッシュボーンなら、設計次第でタイヤを地面に対し垂直方向にもストロークさせられるため、エンジンとタイヤのクリアランスをギリギリまで詰められるのだ。実際、新型のエンジン搭載位置は従来型に対し、24mmも前進している。

従来型のテレスコピック式では、フォーク角度に添ってフロントタイヤがストロークするのに対し、ダブルウィッシュボーンは路面に対してほぼ垂直方向にフロントタイヤがストロークする。

新型ゴールドウイングは、従来型比でエンジン搭載位置が24mm前進。これに伴いライダーの着座位置も前進させることで、前輪分担荷重の増大と防風性能の向上(=ライダーがスクリーンに近づくため、スクリーンが小型でも防風性能を満足させられる)を実現している。

テレスコを圧倒する摺動抵抗の少なさ

さらにダブルウィッシュボーンには見逃せないメリットがある。「低フリクション」だ。一般的なテレスコピック式のサスペンションは、フロントフォークがホイールの支持と緩衝という2役を同時に受け持つ構造で、減速時など大きな力がかかった際には「曲げの入力を受けながらストローク」するため、摺動抵抗が発生することが避けられない。

曲がったインナーチューブとアウターチューブをスムーズにストロークさせるのはどう考えても難しい話だが、タイヤをアームで支持するため、ショックユニットに伸縮方向以外の力が加わらないダブルウィッシュボーンは、テレスコ式よりも圧倒的に摺動抵抗が少ないのだ。

前記したテレスコピックの構造的弱点などから、「支持」と「緩衝」を切り分けたフロントサスペンションは古くから様々なものがチャレンジされている。競技車両ではフランスのモト・エルフや個人製作のニュージーランド製レーサー・ブリッテンなどが、市販車ではビモータのテージ系やヤマハのGTS1000などが広く知られているところだ。

中でも2つのアームがホイール支持を受け持つ、いわゆるダブルウィッシュボーン的なサスペンションは、元々2輪用にこの形式を特許出願したとされる英国人、ノーマン・ホサックの名を取り「ホサックフォーク」と称されることが多い。近年のBMWが採用する「デュオレバー」は、このホサックフォークが原型だとBMW自身が明言しているほどだ。

フランスのオイルメーカー・エルフ社の宣伝塔として、‘70年代後半〜’80年代後半にかけて主に耐久レースに参戦したモト・エルフ。‘83年には鈴鹿8耐にも参戦(写真はトタル・ルブリカンツ・ジャパン社のHPより借用)。

フロントのカーボン製ダブルウィッシュボーン式サスのみならず、フレームを兼ねる60度V2エンジンや車体構成まで、全てをひとりのニュージーランド人が設計・製作した2気筒レーサー・ブリッテン。’80年代後半〜’90年代に盛んだったツインレースではドゥカティのワークスマシンを脅かすほどの速さを見せた。設計者であるジョン・ブリッテンが’95年に、45歳という若さで早逝したことが今でも惜しまれる1台だ(写真はブリッテン・モーターサイクルカンパニーのHPから借用)。

’93年に発売されたヤマハGTS1000。「オメガシェープドフレーム」と名付けられた独特なフレームに、FI化されたFZR1000用の直4エンジンを搭載していた。

BMWデュオレバーとの違いは?

ゴールドウイングのダブルウィッシュボーンとBMWデュオレバー。共にダブルウィッシュボーンとも言え、共通項はある構成だ。

“フロントフォークをアームで支持する”という構造面では、BMWがKシリーズに採用する「デュオレバー」との近似性も感じさせるゴールドウイングのダブルウィッシュボーン式。もちろん違う部分はあるが、ここではフロントフォークとアームが、BMWが上下1点ずつのボールジョイント接続(このボールジョイントが転舵軸も兼ねる)なのに対し、ホンダは上下ともに左右方向にシャフトを通し、これをベアリングで支持している……という部分の差異に着目したい。

本誌の類推であるが、鋼球を圧縮するような力を掛けて支持するボールジョイントは意外と動きが硬く、人力で動かすには結構な力が必要となる。より高荷重な4輪のタイロッドエンドやサスアームには多用されることから、BMWは4輪サスペンションの思想が色濃い構成に見える。対して、ベアリングは指先で突く程度の入力でも動かせることから、ホンダ式はより繊細な作動性を持っている可能性が高く、支持方法の違いから剛性面でも分がありそうだ。

ゴールドウイングのフロントフォーク支持部はニードルおよびボールベアリングを使用。リヤショックのリンクと同構造だと思っていい。対してBMWはフォークとアームの接続部にボールジョイントを使用。これは4輪車のサスアームやタイロッドなどの考え方と近い。

他に、フロントフォーク軸(転舵軸)とハンドル軸(操舵軸)を個別に設定できるため、ライポジ設定の自由度が高いこと、この軸の分離によってハンドルへの振動を約30%低減し、慣性マスも40%以上減っていることなどもメリット。

テレスコピック式のようにフォークを2本収める必要がないため転舵軸まわりのスペース効率も高く、サイドラジエターの小型化と併せてフロントカウル幅は約100mmもスリム化されているし、耐久性やメンテサイクルもテレスコピック式より長くなっているという。

メリットの多さを聞いていると、全てのバイクに搭載してしまえば……とすら思えるのだが、開発を担当した桒原(くわばら)直樹さんは「水平対向6気筒という、車体の低い位置に搭載されるエンジンだからこそメリットを活かせるサスペンション」と語る。

ストリップを見ると分かるが、全高の低いエンジン上には、ショックユニットや支持用アームなどが面積を占めている。エンジン高のある横置き直4などでは、レイアウト的にコンパクト化というメリットを最大限に発揮できないのだという。構成部品が多いため、重量もテレスコピックと比べればやや増す方向だ。

ちなみに、こうした形式ではブレーキング時のノーズダイブを完全に消すことも可能だが、新ゴールドウイングはあえてダイブする設定とされている。各部にベアリングを使う件も併せ、乗り味も違和感のない、それでいて多くのメリットが享受できるサスペンションに仕上がっているはずだ。

エンジン上にはダブルウィッシュボーン式サスペンションのアームやショック類が配される。エンジン全体の形状が平たく、低い位置に搭載できる水平対抗エンジンだから実現可能なレイアウトなのだ。

他にもスタータージェネレーターの採用や、坂道発進をサポートするヒルスタートアシストシステム、iphoneとバイクを繋ぐアップルCarPlayの搭載などなど、新ゴールドウイングには新機軸が満載されているが、その詳細は国内発売を待って改めて報告したい。

発売時期は、本誌の予想では‘18年の4月。同じく本誌予想価格はトップケースなしの「ゴールドウイング」が税込270万円前後、トップケース付きの「ゴールドウイング・ツアー」が300万円前後、「ゴールドウイング・ツアー」のDCT・エアバッグ付き車が330万円前後か。トップケースなしのF6Bで220万円前後、ゴールドウイング・エアバッグなし車で250万円前後だった従来型からは値上げとなりそうだが、装備の充実を考えれば納得の範囲内だろう。

新型ゴールドウイングの足まわり開発責任者、本田技術研究所の桒原直樹さん。新型の乗り心地を「空飛ぶじゅうたんのような快適さ」と表現。期待大!

マツ

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「西部警察」と「北の国から」をこよなく愛する本誌編集部員。NSR専門誌・PROSPECのほか、フリーペーパーとして復活を果たしたビッグマシン零(ゼロ)の編集長も兼任する。
■1975年生まれ
■愛車:HONDA NSR250R(1992)/HARLEY-DAVIDSON XL883(2009)

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