前回に引き続き、新型ゴールドウイングの注目点を解説。上級仕様のゴールドウイング・ツアーには「第三世代」となる7速DCTが搭載されているのもトピック。しかも並行してラインアップされるMT車の6速に対し、DCTは7速と多段化されている。ミッションの多段化というと、クロスレシオ化でエンジン性能を効率的に引き出すことなどが目的の場合が多いが、新ゴールドウイングDCTの多段化は狙いが根本的に異なる。高級車らしい「質感の向上」が目的なのだ。
なぜDCTだけ7速なのか?
‘10年のVFR1200Fで初採用して以来、ホンダがDCTの弱点と考えてきたのが、シフトダウン時の「ガシャン」という音とショックだったという。この症状はギヤの段間差が大きい低速ギヤ側で発生しやすく、自分で変速するMTモードならともかく、ATモードだとライダーが意図しないタイミングで発生するため、どうしても気になってしまうし、質感という点でも好ましくない。ならば問題の発生源であるギヤの段間差を減らすために、1速追加して低速ギヤ側をクロスレシオ化してしまおう……というのが狙いなのだ。いわば「音とショックを減らすため」の多段化。ちなみにこの問題はライダーの意思で変速するMT車には無関係のため、こちらは6速でも事足りるというわけだ。
こうした考え方は近年の4輪高級車では散見されるが、「シフト質感を目的にギヤレシオを決めるという考え方は、従来の二輪にはない特殊なものだと思います」とはDCT開発担当・藤本靖司さんの弁。新ゴールドウイングのギヤレシオを見ると、DCT車はMT車の1〜3速間に1速追加したような構成なのが分かる(高速側3速のレシオはDCT車もMT車も共通)。加えて、5速だった従来型と比較すれば、MT/DCTともにトップギヤの大幅なロング化も一目瞭然。狙いはもちろん高速巡航時の静粛性や燃費向上で、これも新型のギヤレシオの特徴だ。また、音対策としてミッション内部にダンパーやラバーを多数追加し、電制スロットルとの協調制御で変速時間を短縮、ショックも低減させるなど、シフトの質感向上には“ありとあらゆる持ちダマを注ぎ込んだ”という。
バックに加え、スイッチ操作で微速前進も可に
もう1点、DCTに絡む新装備が、ホンダがウォーキングモードと称する微速での前/後進機能だ。従来型もセルモーターを用いたリバース機能(新型もMT車はこの構造を踏襲する)を採用していたが、新DCT車はこれをエンジン動力で行う方式へ変更し、前進機能も追加。左側ハンドルスイッチの+/−ボタンを押すだけで微速の前/後進(車両側でDCTの半クラッチをコントロールし、約1.2〜2km/hを保つ)ができるため、軽量化されたとはいえ、依然重量級ではあるゴールドウイングの取り回しに絶大な威力を発揮するはずだ。
注目はバックさせるためのメカニズム。ミッションのカウンターシャフトを逆回転させるのだが、その方法が興味深い。メインシャフトとカウンターシャフトの間にチェーンを掛け、通常の前進時はギヤ嵌合のため逆方向に回転するこの2軸を、後進時のみチェーン駆動に切り替えることで同方向に回転させるのだ。リバースギな減速にもDCT独自の2軸メインシャフト構造を活用するなど、シンプルで非常に合理的な、アイデア賞ものの構造と言っていい。
余談ながら、‘16年に発売されたCRF1000LアフリカツインはDCTの比率が50%に迫っているとのこと。車両の性格上、ゴールドウイングのDCT比率はさらに高くなると予想される。スポーツからスタンダード、オフロードへと守備範囲を広げてきたホンダのDCTは、確実に市場に浸透しているといっていいだろう。
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