サーキットも街乗りもOK! ヤマハMT-09SPはその名に違わぬスペシャルだった!!【試乗レビュー】

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走りもルックスもヤマハの中軸となるモデルがMT-09。先にクラッチレバーもシフトペダルも持たない、新世代トランスミッションであるY-AMT搭載車が追加されたが、この記事の主役はグレードの高い前後サスペンションやブレーキシステムを採用する上位機種、MT-09 SP。無印MT-09との価格差は18万7000円。かなりの価格差を感じるが、なぜそんなに高いのか? 性能差はどのぐらいあるのか? サーキットと街乗りの両面でSPをじっくり深掘りしてみよう!

●文:谷田貝洋暁 ●写真:富樫秀明 ●BRAND POST提供:YAMAHA [Y’S GEAR]

上級仕様にふさわしい装いのMT-09 SP

MT-09シリーズの中で最上位機種に位置付けられているSP。いったいどのあたりが“SP(スペシャル)”なのか? サーキット走行と街乗りでインプレッション!

MT-09 SPの“スペシャル”たる所以はその豪華装備にある。無印MT-09に対して、ラジアルマウントのフロントブレーキキャリパーがブレンボ製となり、前後のサスペンションのグレードがアップするとともにサスペンションのキャラクターもリセッティング。しかもフロントフォークのインナーチューブにはDLCコーティングが施されるという贅沢具合。

KYB製フルアジャスタブルフロントサスペンションを採用。 無印MT-09、Y-AMTに対し、SPのサスペンションはバネレート強化と減衰特性のリセッティングが施されている。

フォークトップには、15mm幅のプリロードスプリングアジャスターに加え、伸び側減衰力(26段)のアジャスターを装備。

アウターチューブは無印MT-09、Y-AMTのブラックカラーからゴージャスなゴールドを採用。ひと目でSPであることがわかるが、内部構造も伸び圧の減衰力が左右で別の無印MT-09から、左右独立型に変更されている。

専用開発のオーリンズ製のリヤショックを採用し、無印MT-09、Y-AMTにはないリモート式プリロードアジャスターを装備。調整幅はダイヤル21クリックで8mm。

別体タンクでオイル容量を稼ぎ、タンクには圧側減衰力アジャスター(20段)があり、伸側減衰力アジャスター(30段)はショック本体の根元にある

ローター径などの仕様は変わらないものの、SPのラジアルマウントキャリパーはブレンボ製。インナーチューブが黒いのは摺動抵抗を減らすDLCコーティング。ちなみにキャリパーの付け根にあるのは圧側(低速18段/高速5.5段)の減衰力アジャスターだ。

また、外装に関してもタンクをはじめとするカラーリングが無印MT-09やY-AMTとは異なる高級仕様。装備面に関してもシグニッションが無印MT-09がメカニカルキーなのに対し、SPはスマートキーを採用。細かいことを言えばライディングモードにサーキット用の“TRACKモード”が追加され、メーターの表示デザインも1つ多いなどの差別化も図られている。

無印MT-09同様、4つのメーターデザインが選べるのに加え、SPにはサーキット走行用にラップタイマー機能を大きく表示する“TRACKモード”がある。

Y-AMT同様スマートキーを採用。イグニッションオンやハンドルロック、タンクキャップの開閉がキーレスで行える。ただし、タンデムシート下へのアクセスには付属のメカニカルキーが必要。

ヤマハ独自の高意匠プレスタンクという高度な金属加工技術を確立したことで実現したR5(半径5mm)という鋭角なタンクのエッジ。樹脂タンクではなく0.8mm鋼板でこの角度は凄い! 塗り分け塗装タンクもSPならではだ。

アルミスイングアームもSPならではの特別仕様。無印MT-09&Y-AMTが黒塗装なのに対し、YZF-R1Mを連想させるバフ&クリア塗装が採用されている。

“SP”具合はここまで変わる!? サーキットインプレッション

速度域の高いサーキット走行で、無印MT-09とSPのサスペンションの違いはどう感じられるのだろうか?

無印MT-09とSPでその価格差は18万7000円。数字だけみると、50ccのJOG(スタンダード)を1台買っても数千円のお釣りがくるという相当な金額差である。でもSPになったからといってエンジンパワーが増えるわけではないし、Y-AMTの電子制御シフト機構のようなナニか特別な機能が追加されるわけでもない。無印MT-09もSPも、乗り物としてできることは一緒なのだが?…実際にサーキット走行してみるとこれがまったく違ったのである。

大きな違いに感じたのは、やはりサスペンションからくる車体の挙動。というのもMT-09はもともとモタード的なキャラクターの因子を持って生まれたモデルであり、サスペンションのセッティングは柔らかめで、その分ピッチングモーションも大きめに出る味付けになっている。

無印MT-09でのサーキット走行。決してサーキットが走りにくいというわけではないのだが、わりと大きなピッチングモーションが出るのでコーナリングのマシンコントロールにはちょっと気をつかう。

これは2014年にMT-09が登場した時から持っているキャラクターで、とくに初代はまだトラクションコントロールシステムが搭載されておらず、直列3気筒のCP3エンジンパワーも直情的。“じゃじゃ馬”と呼ばれたぐらいMT-09はキャラクターの尖ったバイクとして生まれた。

その後、何度かのモデルチェンジを経てエンジン特性は扱いやすく進化。サスペンションのセッティングも少しずつ変更され、初代に比べればだいぶロードモデルに近い味付けにはなってはきている…が、それでも純然たるロードスポーツバイクに比べるとピッチングモーションは大きめ。

また2021年の車体刷新を伴うフルモデルチェンジでは、大幅な軽量化とともに“Torque&Agile”の原点に立ち返った。“速い”ことよりも動きの大きな車体を“操る楽しさ”をよりしっかり味わえるようなキャラクターへと大きく舵を切った印象だ。

上の無印MT-09と同じコーナーを走るMT-09 SP。車体がしっかり安定するからだろう、より肩から攻め込めるような印象で明らかにコーナリングスピードもアップする。

さて一方のMT-09 SP。じつは筆者、それほどサーキット走行が得意なライダーではない。そんな“ツーリングライダーに無印MT-09とSPの違いが体感できるのだろうか?”…なんて半信半疑でコースインしたのだが、コーナーを2、3個クリアしただけで、その違いに唖然としてしまった。

先ほど「MT-09の足まわりはモタード的なキャラクターで、ピッチングモーションが大きめに出る」なんて話をさせてもらったが、シリーズの中でSPだけは別なのだ。いわゆるロードスポーツバイク的な味付けがされており、ブレーキングにしても、無印MT-09に比べるとコーナー脱出にしてもピッチングモーションがかなり少なめ。

進入ブレーキで車体の挙動がより崩れにくいからよりハードなブレーキングが可能で、車体の挙動が落ち着いているからコーナー出口へ向けてスロットルもワイドオープンできる。またマシンに安心して身を任せられるから気持ちよくハングオンもキマるのだ。

SPでのサーキット走行。ほぼ同じ角度から撮影した無印MT-09の走りと比べてみるとより攻めこめているのがよくわかる。

無印MT-09とSPをとっかえひっかえ同じコーナーでいろいろ試してみると、明らかにSPのほうが、ブレーキングにしてもスロットル操作にしてもより挙動が少なくスムーズで、より早いタイミングでタイヤが路面を掴むのがわかる。おかげで乗り手としてはものすごくコーナリングに余裕ができて、運転が上手くなったような気分になるというワケ。

走り出す前は、サーキットでのサスペンションの違いなどわからないかも? と思っていたが、思いのほか明確な違いを感じることができた。サスペンションひとつでサーキットタイムが変わるものかね? なんてぐらいの半信半疑からの試乗だったのだが、走行フィーリングだけで、無印MT-09とSPの違いわかるぐらいの明確な違いが出ている。

CP3と呼ばれるエンジンは並列3気筒というレイアウト。クロスプレーンコンセプト(CP)に則っており、ダイレクトな加速感と清々しいまでのトルク離れのよさがその持ち味。最高出力は120ps/10000rpmで、最大トルクは9.5kg-m/7000rpm。

サーキット走行して感じるのはアシストスリッパークラッチの繋がり具合のよさ。シフトダウン時にバックトルクを逃すと同時に、再び噛み合うタイミングも絶妙で気持ちよくスポーツ走行が楽しめる。

MT-09 SPはもちろん、無印MT-09にもクイックシフターを標準装備。設定ではクイックシフターのオフのほか、2つの設定が選べ、加速中や減速中にはシフトアップもしくはダウンを行わないといった設定も行える。これはサーキット走行などで意図しないシフトチェンジを防ぐための機能だ。

2024年のモデルチェンジで前輪荷重を増やすような方向でポジションの変更を実施して、ハンドルがやや低くなり、ステップもややバックステップ気味に。ステップポジションを2ポジションから選ぶことができる機能は継承している。

街中でもプリロード調整機構は積極的に使うべし!

無印MT-09比で足まわりが硬めのSPだからといって、流すような速度域で走っても疲れるようなことはない。十分、街乗りやツーリングに使えるキャラクターになっている。

さて、そんなサーキットで好印象を得たMT-09 SPで今度は街へと繰り出してみる。スーパースポーツなど、サーキットでの性能を重視したマシンの場合、街乗りすると足まわりが硬すぎて走りにくかったり、疲れたりするもの。速度レンジの高いサーキットでの印象がよかっただけに、きっと街乗りでは…なんて考えながら、混雑した道から流れのいい幹線道路までいろいろ走ってみたのだが、結論から言うとSPの足まわりは街乗りでのフィーリングもいい。

信号待ちでのストップ&ゴーを繰り返しても、変な硬さはなく、マンホールや路面のギャップで“ガツッ”と突き上げられることもない。とくに感心したのは交差点レベルの低速コーナリング。足まわりが硬めなスポーツバイクは、どうも接地感にかけて交差点のゼブラゾーンなどがおっかなびっくりになるのだが、SPならそんな低めの速度域でのコーナリングも気持ちよく曲がることができた。

スポーティーなMT-09 SPだが、決して街乗りがしにくいなんてことはないことに驚く。

また、せっかく付いているなら…とリヤショックのプリロードダイヤルも回してみることにした。MT-09 SPの場合、フロントフォークにもプリロードや伸び側の減衰力調整がある上、圧側の減衰力は高速と低速域を個別に調整できるぐらいアジャスト機構が豊富。…なのだが、今回いじったのはリヤショックのプリロードダイヤルだけだ。

ただ、それだけで十分違いは感じられる。ひとまずリヤのプリロードダイヤルをソフト側へ目一杯極振りしてひとっ走り。その後、今度は逆にハード側へと目一杯極振りしてひとっ走り。ソフトからハードまで21段、8mmほどのスプリングの縮め具合が変わるとのことだが、僕の場合、好みはやはりハード方向だということを再認識することになった。

ビビりな僕は、フロントタイヤがすくわれて起きるスリップダウンに対してとにかくナーバスだ。少々リヤが硬くてゴツゴツするぐらいは構わないから、“フロントフォークがしっかりフロントタイヤを地面に押し付けているのを感じて走りたい派”なのだ。そんな場合にリヤショックのプリロードをやや多めにかけてハードにしておくと、車体姿勢がやや尻上がりになってフロント荷重が増える。結果、より一層フロントフォークがタイヤを路面に押し付けるからしっかり接地感が出るという寸法だ。

リヤショックのプリロードを変えるだけでも走りがしっかり変わる。違いがわかるだけでなんだか嬉しいもの。MT-09 SPならしっかり違いが味わえるぞ。

ただ、このあたりは好みの問題なのでどれが正解とは言いにくいが、速く走る必要のない街中ではより安心して走れることこそ正義である。とくにツーリングにおける積載走行やウエットコンディションなどは、ちょっとリヤのプリロードを調整してやるだけで、不安が消えたりするもの。そんな調整がいちいち工具を取り出さなくとも、信号待ちでクリクリっと調整できるのだから使わない手はない。

左スイッチボックスのモードボタンを押すと、「SPORT」、「STREET」、「RAIN」、「CUSTOM1/2」が切り替わる。それぞれにパワーデリバリーモード(PWR)や、トラクションコントロールシステム(TCS)、スライドコントロールシステム(SCS)、リフトコントロールシステム(LIF)、エンジンブレーキマネジメント(EBM)、ブレーキコントロール(BC)などのパラメーターが包括的に切り替わる。「CUSTOM1/2」では、各項目のパラメーター変更が可能だ。

ちなみにパワーデリバリーモード(PWR)パラメーターは、1~4の4段階で1が「SPORT」、2が「STREET」、4が「RAIN」。1と2に劇的な出力特性の変化はなく、3にするとかなりマイルドで扱いやすくなり、4にするとドライ路面ではちょっと物足りないぐらいの変化が出る。

レジューム機能付きクルーズコントロールシステムやスマートフォンなどとのブルートゥース通信機能などを備える。5インチTFTディスプレイには、Garmin StreetCrossアプリ(有償/スマートフォンに大きな空き容量が必要)でナビゲーション画面も表示可能。

灯火類はナンバー灯以外はLEDを採用し、急減速を行なった場合にウインカー類を高速点滅させるエマージェンシーストップシグナル(ESS)システムも搭載。消灯がやや遅めだがオートキャンセルウインカーも新装備している。

まとめ:“SP”の18万7000円の差は安すぎる

サーキット、街乗りとまったく違うフィールドでMT-09 SPを走らせてみたが、改めて思うのはこれで18万7000円の差額だったら安すぎるということだ。後から前後サスペンションをカスタムしたらいくらかかるか? しかもMT-09 SPに奢られるフルアジャスタブルのフロントフォークには、摺動抵抗を減らすために高価なDLCコーティングが施されているうえ、同じくフルアジャスタブルのリヤショックはオーリンズの別体タンク付きである。

このセットが約20万円という時点で安すぎる気もするが、MT-09 SPにはさらにスマートキーやブレンボ製ラジアルマウントキャリパーなども付いてくる。乗れば乗るほどMT-09 SPの価格がバーゲンプライスに思えてきてしまった。

…なんてことを書くとMT-09 SPばかりに目が行きそうだが、無印MT-09にも立つ瀬はある。MT-09のシリーズコンセプトである“Torque&Agile”を思い切り味わいたいなら無印MT-09の方がおすすめだ。しなやかな足まわりからくる大きなピッチングモーションは積極的にバイクを操るスパイシーさーがあり、走らせていると“その気”にさせてくる何かがある。開発陣の思想をより強く感じられるのは“Torque&Agile”な無印MT-09なのだ。

ということでMT-09シリーズを選ぶ際のポイントは、“バイクを操るより強い刺激”を味わいたいなら無印MT-09、“ロードスポーツバイク的な走りの完成度”を求めるならMT-09 SPといったところか。

YAMAHA MT-09 SP EXTERIOR

【YAMAHA MT-09 SP】主要諸元 ■全長2090 全幅820 全高1145 軸距1430 シート高825(各mm) 車重194kg(装備)■水冷4スト並列3気筒DOHC4バルブ 888cc 120ps/10000rpm 9.5kg-m/7000rpm 変速機6段リターン 燃料タンク容量14L(ハイオク指定) ブレーキF=Wディスク R=ディスク タイヤサイズF=120/70ZR17 R=180/55ZR17 価格:144万1000円

RIDING POSITION

825mmのシート高はMT-09SP、無印、Y-AMTのモデルとも共通で、両足を着こうとすると踵がわずかに浮くぐらいの足着き性。2024年のモデルチェンジでハンドルポジションが変更されやや低めにセットされており、実際に跨ってみみても従来モデルに比べ心なしか前傾姿勢が強まった印象を受けた。

MT-09 SPのシート高は825mm【ライダー:身長172cm/体重75kg】

【TESTER:谷田貝 洋暁】「レディスバイク」「Under400」「タンデムスタイル」など、初心者向けバイク雑誌の編集長を経てフリーランス化したライター。“無理/無茶/無謀”の3ない運動を信条としており、毎度「読者はソコが知りたい!」をキラーワードに際どい企画をYM編集部に迫る。本誌ではガチテストやオフロード系の“土モノ”を担当することが多く、叩けばたぶんホコリが出る。


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