’16年に惜しまれつつも生産終了となったカワサキW800がほぼフルモデルチェンジという内容で復活した! 昭和のルックスとフィーリングを今に伝える稀有なモデルは改元を前に果たしてどのように進化したのだろうか。
W1誕生から半世紀が経過。昭和の香りを令和に伝える
発売当時において国産車の最大排気量であり、カワサキの世界進出の足掛かりとして’66年に登場したのが650-W1だ。’74年に後継モデルの650-RS(W3)が生産終了になったことで一度“W”ブランドは幕を閉じるものの、四半世紀後の’99年、昭和を想わせるルックスや空冷バーチカルツインによるフィーリングなど、当時の雰囲気を再現したW650が登場。Wブランドの第二章がスタートしたのだ。
’11年、W650は排ガス規制をクリアするためにFIを新採用し、5mmのボアアップにより排気量を675ccから773ccへと拡大したW800へとモデルチェンジする。ほぼ姿を変えずに進化したこのネオクラシックモデルは、次の排ガス規制をクリアできないという理由により’16年7月に生産を終了。復活希望の声が高まる中、’19年3月に発売されたのが、今回の新型W800である。基本となるスタイルは継続するものの、エンジンは構成パーツの90%を見直すなど、ほぼフルモデルチェンジといっても過言ではない。
エンジンは快活度アップ、ハンドリングはモダンに
昨夏、W800のファイナルエディションに試乗する機会があった。フロント19インチホイールによる大らかなハンドリング、クランクマスの重さを感じさせる独特なエンジンフィールなど、根本的な乗り味は前身であるW650時代から変わっていないことを確認した。その一方で、剛性不足を感じるフレームや足回り、前後を同時に操作しないと十分に減速しないブレーキなど、基本設計の古さを思わせる部分があったのも事実。その後、排ガス規制をクリアする新型が登場するとの噂を耳にするも、単にそれだけだとネオクラシックのジャンルで取り残された存在になるだろうと危惧していた。
新型を目の前にした瞬間、その思いはさらに強まった。フロントホイールを18インチ化した以外、見た目にほとんど変わっていないではないか。しかも、モデルバリエーションはカフェとストリートの2種類となり、2台はカウルの有無だけでなくライディングポジションまで大きく異なる。ライダーの重心位置がマシンのハンドリングに与える影響は大きく、同じモデルでこれだけ乗車姿勢が異なると、どちらかが破綻を来すはず。ところが……。
そんな私のつまらない心配は、走り出した瞬間に霧散した。これはまるで別物じゃないか! 思わずヘルメットの中で声に出してしまったほどだ。
順を追って説明しよう。まずはエンジンから。ナナハンをわずかに超える773ccの空冷並列2気筒は、最高出力が4psアップして52psに。これはW650時代の50psを上回るもので、付け加えると最大トルクの発生回転数が2500rpmから4800rpmへと大きく高回転側にシフトした。その影響もあってか、低回転域でのトルクフルな脈動感はそのままに、スロットルを大きく開けたときの伸び上がり感が強まった印象だ。トップ5速、100km/h巡航時の回転数は約3500rpmで、歯切れのいい排気音と相まってクルージングが実に心地良い。
そして、このエンジン以上に変化していたのがハンドリングだ。フロントホイールの18インチ化に加えてキャスター角が27度から26度へ、またトレールが14mm減っており、倒し込みに対してナチュラルに舵角が入るというモダンなハンドリングを手に入れた。とはいえ、旋回力は前後17インチを履くネイキッドほどシャープではなく、トレース性も含めて緩さを残したのはマシンのコンセプトからしても正解だ。
ブレーキも進化した。従来はフロントを強く利かせるとフロントフォークやフレームの弱さが露呈し、そこそこのペースに抑えて走る必要があったのだが、新型はシャーシ全体の強化が功を奏し、ガッチリと利かせられるようになった。さらに、リヤブレーキがドラム→ディスク化され、よりコントローラブルになったのも朗報だろう。
異なるライポジながらもハンドリングが成立する
さて、新型W800の購入を検討している人が最初に悩むのは、2種類のモデルからどちらを選ぶかだろう。試乗する前はノンカウルのストリートが万人向けだと考えていたが、いやはやどうして、ハンドリングとのマッチングではハンドルの低いカフェも捨てがたく、一筋縄ではいかないようだ。
カフェは前傾姿勢が深いように見えるが、実際にはニンジャ250とほぼ同等であり、ステップ位置が前寄りにある分だけ上半身を支えやすく、むしろリラックスできる。ライポジがスポーティなのでフロントにしっかり荷重を掛けて旋回したくなるが、タイトな峠道から高速道路の大きなコーナーまで試した結果、腰を引いての後ろ乗りのほうがしっくりくるようだ。フロントカウルは小さいながらも胸部付近にあたる風を効果的に減じてくれ、これによりストリートよりも巡航アベレージが高まる傾向にあった。付け加えると、グリップヒーターを標準装備するのはカフェのみであり、トータルでの快適性はこちらに軍配を上げたい。
これに対してストリートは、カフェよりもシート高が20mm低く、それだけでも大きなアドバンテージだ。体重のほとんどがシートに集中する殿様ポジションのため、お尻がやや痛くなりやすい。とはいえ、ウレタンが薄い分だけ腰で操作したときのフィーリングはソリッドであり、そういう意味ではこちらもスポーティと言えるだろう。ハンドルのグリップ位置はW650時代のハイハンドルと同じ高さに設定されており、上半身が完全に直立するため走行風をダイレクトに受ける。とはいえ、それは決してネガではなく、見たイメージそのままの世界がそこに再現されている。重心位置からハンドルが離れているので、カフェよりも軽い入力で倒し込みや切り返しのきっかけを与えることができ、特にタイトな峠道では水を得た魚状態だ。そして、何よりもうれしいのは、前後のサスが硬めにリセッティングされたことで、実質的なバンク角が増えたこと。流すようなペースなら、まずステップの先端を接地させるようなことはないはずだ。
外観をほぼ変えずにここまで進化させるとは正直驚いた。Wブランドにおける新章の幕開けといってもいい。
対照的なライディングポジションだが甲乙付けがたし
カフェは上半身の前傾度が深いように見えるが、ハンドル位置が近いので雰囲気としてはニンジャ250と同レベル。ストリートより座面が20mm高い分だけ膝の曲がりが少ないのもいい。これに対してストリートは、ハンドルのグリップ位置がモデルチェンジ前よりも高く、上半身が完全に直立する。シート高770㎜はニンジャ250の795mmより低く、足着き性は優秀だ。
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