国内市場活性化へのアプローチ

2019年国内バイク市場の展望を語る【自工会二特委員長インタビュー】

国内自動車メーカー14社によって構成されている日本自動車工業会。そのバイク部門を司る二輪車特別委員会(自工会二特)の委員長を務めている日髙祥博氏(ヤマハ発動機代表取締役社長)が、2019年の年頭に当たり、自工会二特委員長として業界活動にどう取り組むか、また、国内二輪車市場をどう盛り上げていくか、展望を語った。

※本記事はMotorcycle Information2019年1-2月号(日本自動車工業会発行)掲載記事を一部加工し転載したものです。

日髙祥博氏(ひだか・よしひろ)1963年愛知県生まれ。1987年ヤマハ発動機入社、2018年同社代表取締役社長就任。モットーは「安易な妥協はしない」 愛車は排気量1,000ccのスーパースポーツ。休日の早朝ツーリングが束の間の憩いになっている。「バイクの魅力は、なんといっても操縦のフィーリング。走り出すと本当に気持ちがいい」と、こればかりは理屈抜きに楽しんでいる。

業界の活動に手応えを感じている

――2018年はヤマハ発動機社長就任1年目の超過密なスケジュールのなか、自工会二特の活動にも取り組まれたわけですが、委員長の立場を振り返っていかがですか?

委員会に関しては、カワサキ、スズキ、ホンダ、ヤマハそれぞれの代表者が活発に議論できるように、委員長は中立的な立場で盛り上げていくのが役目です。ならば、そこをしっかりやりたい。4社の協調領域を明確にして、いっそうの取り組みを進めていく考えです。

――外部に向けた活動としては、さまざまな二輪車業界イベントに参加されていました。どんな感想を持たれましたか。

昨年のBLF に連動して行われた「MFJ 東北復興応援ツーリング」にも参加

「BIKE LOVE FORUM(BLF)(*1)」は個人的にも楽しかった。岩手県での開催だったのですが、被災地支援に取り組むライダーが大勢いることを知って、バイクに乗ってる人たちって社会的にもカッコいいんだなと、感激しました。後日、秋葉原で実施した「バイクの日」イベント(*2)には、通りすがりの若者たちの姿も多かったのですが、社会的にカッコいいライダーをもっとアピールすれば、どんどん仲間になってもらえるんじゃないか、そんな期待感を持ちました。若い世代の価値観に刺さるような魅力を発信していくことが肝心だと思います。

(*1) 経済産業省と自工会など二輪車関係8団体と自治体が一体となって実施している二輪車産業振興の官民会議。
(*2) 毎年、自工会などが主催し、バイクの日(8月19日)に実施しているイベント。名称は「バイクの日スマイル・オン」。

これからの市場活性化ビジョンを描きたい

――今年、自工会二特として取り組む最大のテーマは何ですか?

それはやはり、国内の二輪車市場を盛り立てることです。BLFとして国内販売100万台の目標イメージ(*3)があると聞いたときは、思わず襟を正しました。単に二輪車100万台ではなく、趣味で楽しむ軽二輪以上の領域と、日常のコミューターである原付一種・二種の領域とを切り分ける必要がありそうです。2020年が区切りになるので、そこからもう一度、市場活性化のビジョンを描いて、効果の見込めるプランを構築したいと考えています。

(*3)経済産業省の主導で開催された「第1回BIKE LOVE FORUM」において、二輪車産業が目指す姿(2020年)として、1.国内新車販売100万台、2.世界シェア50%超、3.マナー向上が共通認識された。

――それぞれの領域にどんな展望がありますか?

まだ具体的な施策は発表できないけれど、軽二輪以上の領域は市場が堅調なので、需要を維持しながら長期的な拡大につなげていく。そのためには、中高年のユーザーが長く楽しめる利用環境をつくっていくことと、若い世代が参入してくるきっかけづくりが大事。いま新しいアクションを企画しているところです。

――一方で、コミューター市場についてはいかがですか?

原付一種の需要減少が続いているので難しいところですが、だからこそ原付一種・二種の領域にはこれからのビジョンが大切です。国内の状況だけにとらわれず、グローバルな視点も踏まえて、小型コミューターのあり方、役割をもう一度リセットして考えてみたい。なにしろこのカテゴリーは、省エネで、経済的で、環境にもやさしい。そうした有用性の高い乗り物を、いかに求めやすい価格で提供できるかが普及のカギだと思います。この領域については、行政とも緊密に連携しながら知恵を絞っていきたい。

――原付の領域には、世界的な流れであるEVシフト(*4)も視野に入りますね。

そうですね。二輪車の将来にとって、電動化はもはや避けて通れないテーマです。当然、競争領域では、個々のメーカーがスピード感をもって取り組む必要があるでしょう。自工会二特としても、電動化におけるさまざまな課題のうち、協調できる部分に関して、たとえばバッテリーの技術基準だとか、充電インフラのあり方だとか、官民のオールジャパンで取りむべきところをしっかり進めたい。二特委員会で検討ワーキングをスタートさせているところです。

――原付の電動化を進めることは、すなわち原付領域のあり方について再考するきっかけにもなりそうですね。今後の動きから目が離せません。

*注4:自動車の世界で、ガソリンエンジンから電気モーターへ移行しようという世界規模の潮流。

利用環境改善の取り組みをアップデート

――国内の二輪車市場を活性化する方策として、従来、二輪車の利用環境改善に取り組んできましたが、今後はどのように進めていきますか?

自工会二特では、経済産業省などと連携しながら「二輪車産業政策ロードマップ」を策定して取り組んでいます。そこでは利用環境に関する課題を挙げて、それぞれ対策を講じていて、ここ数年の取り組みで、成果が出てきた施策もあります。

――具体的にはどのような動きが出ていますか。

たとえば高速道路の二輪車料金の問題。ETC割引「ツーリングプラン」のトライアルを踏まえて、料金設定そのものの見直しにつながればと期待しています。ほかにも「AT小型限定普通二輪免許」の教習制度が見直されたり、高校の安全運転教育が前進したり、二輪車駐車場の整備促進など、少しずつ意義のある動きが出ています。

――ある程度成果は出てきたものの、まだ道半ばの施策も多いようですね。

そうですね。こうした施策を今後どう展開するかについて、私はPDCA(*5)をしっかり回すことが大切だと考えています。2014年にプランを立てて実施してきたわけですから、今年はPDCAのC、チェックの年だと思います。これまでの成果やユーザーの反応を見ながら再点検して、新たなアクションにつなげる必要があります。ロードマップは2020年がマイルストーンになるので、その先の将来に向けて、自工会二特の取り組みもアップデートしていきます。それから、安全普及に関するホットな話題として、今年は「二輪車安全運転全国大会」(*6)が装いも新たに開催されます。自工会二特としても大いに協力していますので、ぜひ注目してください。

*注5:ビジネス管理において、「P=Plan」⇒「D=Do」⇒「C=Check」⇒「A=Action」のサイクルを回すという手法。
*注6:一般財団法人 全日本交通安全協会 二輪車安全運転推進委員会が実施していた「二輪車安全運転全国大会」は、2017年(50回大会)を最後に終了。一般社団法人日本二輪車普及安全協会の主催で2019年から開催されることになった。

日本の二輪車の将来を「拓く」決意

――今年は二特委員長2年目となって、業界活動にもいよいよ“日髙流”のアプローチが見られそうですね。

いやいや(笑)、急に何か変わるわけではないけれど、やはり大事なのは、何のためにやっているのか原理原則に立ち帰ること。施策を打ってもユーザーの利便性が高まらなければ意味がないわけです。そこを見極めながら一歩ずつ前進したいという気持ちです。

――最後に、2019年の抱負を色紙にお願いします。

二輪車市場の活性化、若者の需要創出、電動化への道筋など、いろいろ挑戦していくという思いを込めて「拓く」とします。

――ご活躍を期待しています。本日はありがとうございました。