2018年5月に初公開されたヤマハYZF-R1Mの1/12スケールモデルが、タミヤから9月に世界中でほぼ同時にリリースされた。実車と見紛うばかりの再現度で登場したこのプラモデルの開発時に目指したもの、また苦労話などを尋ねた。
組み立てることで構造を理解できる設計
ヤマハの誇るスーパースポーツ、YZF‐R1がタミヤでスケールモデル化されるのはこれで二度目だ。一度目は初代R1(4XV)で、実車のデビューイヤーと同じ’98年に発売された。つまり、今年はR1の実車にとってもスケールモデルにとっても、記念すべき20周年ということになるのだ。
このたび1/12スケールでプラモデル化されたのは、オーリンズ製の電子制御サスペンションを採用した上位モデル、YZF‐R1Mである。現物を見た実車の開発責任者であるヤマハ発動機の平野啓典さん、同じく実車のデザインを担当したGKダイナミックスの坂田功さんとも、その忠実な再現ぶりに驚きを隠せない様子である。
「特に標準装着タイヤのトレッドパターンの再現度に驚きました。これなら各パーツの設計担当者やサプライヤーさんも感激でしょう」(平野さん)
「全体のプロポーションにまったく違和感はないですし、設計の段階で苦労したパーツ、こだわった部分などがそのまま再現されている。子どもにも喜んでもらえましたよ」(坂田さん)
タミヤの創業は1946年。企画から金型製作、ボックスアートに至るまで自社で一貫して行うなど、日本で随一の開発力を誇る模型メーカーであり、精度および完成度の高さで世界中にファンを持つ。同社は1970年からバイクのスケールモデルを発売しており、今年5月の静岡ホビーショーで初公開したのが1/12スケールのYZF‐R1Mだった。
設計を担当したのは、企画開発部に所属する荒木茂樹さんだ。バイク乗りでもある氏が近年手掛けたバイクモデルは、1/12スケールのカワサキ・ニンジャH2Rや、1/35、1/48スケールの軍用バイクなど。さて、果たしてどのような経緯でR1Mのスケールモデル化がスタートしたのだろうか。
「実車自体に魅力があり、なおかつ模型映えする機種が選ばれることが多く、R1については以前からスケールモデル化したいという声が社内でも上がっていました。そんなタイミングでヤマハさんからもR1の20 周年に合わせて模型化のリクエストがあり、今回のプロジェクトがスタートしました。車種が決まれば、まずは取材と資料収集に取りかかります」
そう言って荒木さんが見せてくれたのは取材風景の写真だ。カウリングや燃料タンクを取り外した、いわゆるストリップ状態のR1Mをタミヤのスタッフが入念に撮影している。立体物からデジタルデータを作ると言えば3D スキャナーを思い浮かべるが(タミヤでもケースバイケースで使用)、ひたすら静止画と動画を撮影し、各部を実測する。こうした作業を通して、設計者が実物に触れることが大切だという。
「取材と資料収集が終わったら設計に入ります。バイクはさまざまな部品が集まって全体のプロポーションを作っているので、4輪とは違った難しさがありますね。例えばエンジン。空気を取り込んでインジェクターがガソリンを噴射して、最終的にサイレンサーから排気ガスとして出てくるまでを作りながらイメージできるよう、エアクリーナーボックスまで再現しました。冷却系も同様ですね。一方でハーネスなど電装系は省略しています。1/12スケールでの再現は難しいですね」
「省略と言えば、フレームとステップの基部を一体化したことも挙げられます。ここを分割すると接着面を設ける必要があり、細かな形状を再現しにくくなってしまう。それでもパーツ点数はプラスチック部品だけで約160点、初代R1よりも3割増えてしまいました」
初代R1のスケールモデル化から20年の月日が流れ、この間に設計や金型製作の技術、精度も向上。より精密な設計が可能になったという。
「プラスチックのパーツは厚さが平均で約1mmあります。1/12スケールですから12倍すると12mmになりますが、実車のカウリングはそこまで分厚くないですよね。なので、そう感じさせないように工夫して設計しています。特にこのR1Mでは開口部の大きなテールカウルなどに気を配りました」
場合によっては模型映えするようにわずかなデフォルメを加えることもあるが、R1Mに関してはほぼ行っていないという。実車の造形自体に力強さがあるため、必要がなかったからとのこと。裏を返せば、手の平サイズの1/12スケールになってすら存在感のあるスタイリングと言えるだろう。
「細かい部分をもっと再現することはできますが、そうするとパーツ点数が増えてしまい、製作の難易度がどんどん上がってしまいます。そのさじ加減をどうするかが難しいですね。それでも、組み立てる過程でこのパーツはどのように機能しているのか、またどれほど高性能で志の高いバイクなのかを実感できるように設計しました」
と、胸を張る荒木さん。R1Mの魅力がギュッと詰め込まれた1/12スケールモデル。R1オーナーはもちろんのこと、モデラーにとっても挑戦しがいのある作品と言えるだろう。
●写真:真弓悟史/タミヤ
※『ヤングマシン2018年12月号』掲載記事をベースに再構成