’17年にフルチェンジしたMT-09に、’18は金色の前後ハイグレードサスで強化したSPが登場。その性能の違いを限界域での走行で見届けるためにSTDと一緒に袖ヶ浦フォレストレースウェイに持ち込んだ。ヤマハ同門対決の決着や、いかに? ※ヤングマシン2018年6月号(4月24日発売)より
別物の安定感、上質サスで公道も最高だ
MT-09は、ストローク長めのよく動くサスで前後ピッチを活かし、ちょっとトリッキーとも呼べるくらい俊敏な走りを、ストリートやワインディングで楽しむマシンだ。ジャジャ馬すぎた初代と比べ、’17モデルでいくらかサスに落ち着きが持たされたが、その基本コンセプトは変わっていない。足がよく動くがゆえに、サーキットレベルの速度域では限界が早く、お世辞にも向いているとは言えなかったが、思いのほかそうした需要があったのだろう。今回新たにフロントにKYB製、リヤにオーリンズ製のフルアジャスタブルサスを装着して、足まわりを固めたSPが追加となった。特にフロントサスの圧側ダンパーは、低速/高速の2ウェイ調整が可能という凝ったものとなっている。
跨ってバイクを前後に揺すってみると、SPはダンパーをしっかり効かせてあるのが分かり、STDとはまったく別物と言えるくらい動きは少ない。サスの沈み込みも少なくて、若干の腰高感もある。これは、さぞかし乗り味も変わっているだろうと走り出してみたところ驚きが待っていた。いやいや、まったくそんなことはないのだ。基本的にはSTDの方向性と同じく、前後ピッチの動きがちゃんと持たされている。ポジションの雰囲気も同じ。MT-09の足まわりを固めてロードネイキッドとしたXSR900ではゴツゴツした硬さが目立っていたが、SPはストリートでも高速道路でもSTDの良さはそのままにしっとりと粘ってくれ、全体的にクオリティが上がったという印象だ。 ※テスター:丸山浩
MTが見せる楽しさをサーキットまで広げた
このクオリティの違いが決定的となるのがサーキット走行でのグリップ感だ。速度域だと150㎞/hくらいでの話。STDだと深くバンクした状態でサスが細かく動いてパタパタしてしまう。パタパタしているというのは、そのぶんタイヤの接地圧が抜けている瞬間があるわけで、当然グリップもしてくれない。深く寝かしこむことも厳しいから、そこからさらにイン側に引き込むこともできない。ステップを擦るのさえ若干怖くなってくる。
これがSPになると、ダンピング向上によって新たにもたらされた、ストロークの奥の領域がしっかりと路面に追従し、パタパタが解消。サーキットレンジに対応したグリップ力を見せてくれる。それにブレーキを握りながらコーナーに入っていくにしても、サスに奥があるので全然違う。ブレーキングで前へピッチしながらもコーナー出口ではしっかりリヤタイヤが地面に押さえ付けてグリップ。MT-09本来の持ち味を、サーキットの領域まで広げてくれたといった感じだ。
さて、ここまでSPのサスは標準設定のまま。それでも十分サーキットに対応していたが、ダンパーを締め上げていけばより攻められるわけで、今回は市販車としては珍しいフロントの圧側2ウェイダンパーに焦点を当ててテストしてみた。結果としては低速側・高速側ともに最強付近がサーキットではベスト。ブレーキングでよりコーナー奥まで粘ることができるようになり、高い戦闘力を見せるようになった。STDとの価格差は約11万円。サーキットは走らない人でも、ブレーキング時の質感アップはワインディングでも活きる。付いてくる装備を考えると、SPはかなりのお買い得だ。 ※テスター:丸山浩
ライディングポジション
【SP】速さも汎用性も広げる高級前後ショックの威力
SP最大の特徴である専用の前後サスペンション。KYB製倒立フォークはSTDより高級な左右両側の減衰力調整機構を持つうえ、圧側減衰に市販車のフロント用として珍しい低速/高速の2ウェイ調整機構まで装備。リヤはプリロードと圧側減衰が手元で簡単に操作できるリモート調整方式のオーリンズ製フルアジャスタブルショックを採用している。開発者によると減衰力の限界値はYZF-R1同等まで確保。オーリンズ単体でも車両価格差である約11万円以上の価値だ。
【SP】圧側ダンパー調整の「高速/低速」って何だ?
圧側減衰力とは、サスが縮むときのストローク速度をコントロールする役割を持つ。SPのフロントフォークでは、これを低速・高速の2通りに分けて調整できるわけだが、低速側は止まったバイクを人間が揺すって分かるような、ストロークの一般的な領域で、従来からある圧側調整と同等のものだ。これは調整すると違いは歴然で、強めるとブレーキングでより粘れる奥行きを増やせる。
これに対し、高速側はもっと速い速度でサスが動く領域を司る。例えば100㎞/h以上でギャップにガツンと突き上げられるような入力への対応だ。低速側と違い、この高速側は手で押すレベルでは調整の効果が分かり難いが、弱め過ぎるとむしろギャップの吸収性が落ちるなど、タイヤをキチンと接地させる仕事は確実に行っている。今回はサーキットで、低速側/高速側をそれぞれ最強にしたり最弱にしたりと様々な組み合わせをテストしたが、低速最弱・高速最強という組み合わせはバランスが悪かった。ハイグリップタイヤを履いてサーキットのタイムを詰めていくと、低速側はすぐに最強付近まで締め上げることが多いのだが、高速側はそこからさらにもう一歩詰めたいようなときの調整項目と考えてほしい。
つまり調整のメインは低速側で、そこで足りない部分を高速側で補っていくのが基本。通常ならば高速側は標準~最強付近でいいかな。低速側と違って、峠レベルだと調整しても大きな違いは出てこないと思う。
【STD】標準車でも調整機構は多彩
SPとSTDの違いは?
【INTERVIEW】「速度を低く感じるほどの安定感」
元々MT-09のコンセプトは、柔軟な足まわりでモタード的な乗り味を狙ったものです。STDモデルには調整機構などを追加していますが、乗り味は初代から大きく変えていません。一方「もっと足を硬くしたい、スポーツ走行をしたい」との声も頂いていました。この要望に応えたのがSPです。実際に「かなりスポーツできる」マシンに仕上がりました。減衰力のみで言えば、前後ともYZF-R1のSTDと同等まで上げることが可能です。サーキットでは、コーナーの出口でサスが滑らかに追従し、スロットル全開のままクイックシフトで気持ちよく立ち上がることができます。直線では180km/hでも安定し、感覚的には20km/h低く感じるほど。この走りをぜひ体感して欲しいです。もちろん公道でも良さを味わえます。リヤのオーリンズはフリクションが少なくスムーズ。前後合わせて最適にセット済みですが、調整次第で路面追従性をより上げることが可能です。
さらにSPは、所有感も抜群です。「専用サス」をアピールするため、Fフォークトップにレーザー加工で車名を刻印。また、タンクは手塗りとなります。このキメ細かいメタリックカラーはMT- 10SPと同様の塗料。あちらは樹脂への塗装ですが、09のような金属タンクへの塗装はメタリックにムラが出るため、ベテランの職人が1つずつ手塗りで仕上げています。価格にも注目して下さい。パーツ交換でSTDをSPと同仕様にするには30万円以上かかります。正直、すごく頑張った価格設定です。 ※MT-09 SP プロジェクトリーダー中嶋淳二氏
テスター:丸山浩
まとめ:宮田健一
撮影:長谷川徹
ニュース提供:ヤングマシン2018年6月号(4月24日発売)