鈴鹿8耐から製品へ──パワー伝達の要、ドライブチェーンひとすじに【50年カンパニー Vol.7 アールケー・ジャパン 歴史編】

チェーンメーカーのRK(アールケー)ジャパンの最新のカタログの表紙には、「レースから製品へ」というキャッチコピーが踊る。今回、技術開発部部長の福島康文さんと、営業部部長の山田博康さんにRKジャパンの約80年に及ぶ歴史を語っていただいたが、その歴史はまさにレース、それもロードレース、さらに言えば耐久レースとともにあった。我々ライダーの足元を確実に、そして強靭かつしなやかに守ってくれるドライブチェーンには、ロードレースという極限の場で生まれた確かな信頼性が息づいているのである。
●取材/文:Nom ●写真;柴田直行、徳永茂 ●BRAND POST提供:アールケー・ジャパン
スタートは自転車用のチェーン製造だった
エンジンのシリンダーの中でピストンが上下して発生した力を、クランクを介してリヤタイヤに伝える。その要のパーツがドライブチェーンである。エンジンがどれだけ大きなパワーを発生しても、それを後輪に伝えるチェーンがなければそのパワーはまったく無意味。多くのバイクにとって、チェーンは唯一無二、なくてはならない生命線のパーツなのである。
モーターサイクル用のドライブチェーン(図はシールチェーン)は6つのパーツ、内外のプレート、ローラー、ピン、ブッシュ、シールリング、グリースで構成されている。チェーンのヒトコマ、ヒトコマがとても小さなパーツの集合体なのである。
そのチェーン(ブランド名はRK TAKASAGO CHAIN)を1947年から作り続けているメーカーがRK(アールケー)ジャパン。歴史を遡れば、鉄鋼製品の製造・販売を行っていた1923年創立の高砂鐵工の東京・板橋区の志村製造所内でチェーン部が発足したのが端緒となる。
ただ、発足当初はモーターサイクル用のドライブチェーンではなく、当時の庶民の主要な足であった自転車用のチェーンの製造が主。しかし、51年にそのチェーン部門を分離・独立してRKジャパンの前身となる「高砂チェーン」が誕生し、そのわずか2年後にはモーターサイクル用の「RKチェーン」の製造・販売がスタートしている。ちなみに、社名であるRKとはドイツ語の「Rollenkette(英語ではローラーチェーン)」の略である。
取材に対応してくださったのは、技術開発部部長の福島康文さん(右)と、営業部部長の山田博康さん。おふたりとも、大のバイク好きで、バイクの仕事がしたくてRKジャパンに入社したという。バイクの仕事に携われて満足されているという。
「この頃、モーターサイクルが急速に普及し始めて、会社としては自転車用よりも単価の高いモーターサイクル用のチェーンを製造・販売するようにしたのだと思います」(福島)
その後、1961年にホンダ、1964年にスズキ、1965年にヤマハの量産車にRKチェーンが採用されるようになり、モーターサイクル用ドライブチェーンメーカーとしての地歩を固めていくのだが、車両メーカーの純正採用というのはビジネス面でもとても重要なもので、現在でもRKチェーンの全販売量の4割を純正採用が占めているという。
そんなRKジャパンに1970年代後半、大きな転機が訪れた。
ホンダへの純正採用第1号がこのホンダ・ドリームC70。いわゆる神社仏閣デザインにより大きな人気を博した。
軽くコンパクトな車体で、79ccながら125ccクラスに匹敵する性能を目指して開発されたスズキ・セルベット80。純正採用第1号車。
ヤマハの純正採用第1号車は、当時の若者向けに開発されたヤマハ70YP1。カタログでは、オートルーブであることが強調されている。
チェーンを背負って走っていた時代
それまでのチェーン(ノンシールチェーン)とは比べようもないほどの耐久性を誇るシールチェーンの「Oリングチェーン」が開発された。今では当たり前のシールチェーンだが、鉄と鉄がダイレクトに擦れ合うノンシールチェーンが常識だった当時としてはまさしく画期的で、チェーンの耐久性が飛躍的に向上したのである。
そして1977 年の世界耐久選手権のBold’or24時間耐久レース。当時、無敵の強さを誇っていたホンダ・RCB1000がそのOリングチェーンを使用し、24時間のレース中、チェーンを一度も交換せず見事に優勝を飾ったのである。
「その当時、24時間耐久レースではチェーンはレース中に何度も交換するのが当たり前で、いつ切れるか分からないからと走行するライダーがチェーンを背負って走っていたそうです。そんな中、RKのチェーンは一度も交換することなく24時間を走り切り、見事に優勝を飾ったのです」(山田)
Bold’or24時間耐久レースの結果を聞いた、スズキのエンジニア・横内悦雄さん(油冷エンジンの開発で知られる)が、翌1978年に初開催された鈴鹿8時間耐久レースに出場するヨシムラチームにRKのシールチェーンを使用するように進言。RKのOリングチェーンを装着したヨシムラ・GS1000は今年で46回を迎える鈴鹿8時間耐久レースの初ウイナーに輝いたのだった。
初めてOリングチェーンを投入し、当時、無敵を誇ったホンダ・RCB1000が見事にチェーン無交換で優勝を飾った1977年のBold’ol24時間。それまでは、24時間レースでは3回のチェーン交換が必要だったという。
Bold’ol24時間の翌年、鈴鹿サーキットで開催された第1回鈴鹿8時間耐久レースで、Oリングチェーンを使用したヨシムラが優勝。ここから、RKとヨシムラの深い関係が始まった。
下から、1978年のヨシ19ムラ・GS1000の630サイズ、中央が1985年の平忠彦選手のYZR500 の530 サイズ、上が1918年にモトGPチャンピオンを獲得したマルケス選手のRC213Vの520サイズ。チェーンの進化が一目で分かる。
シールリングの変遷
【Oリング】一般的なオイルパッキンと同じ丸い形状。1977年のBold’ol24時間、1978 年の鈴鹿8耐の優勝を機に次々と各車両メーカーの量産車の純正チェーンとして採用された。
【RXリング】封入リップを2つにするダブルバリア構造により、グリースの密封性の向上とフリクション軽減を実現したのがRXリング。現在は、国内のアフターマーケットでは流通していない。
【XWリング】ダカール・ラリーに参戦するホンダチームのために開発。封入リップを3つにするトリプルバリア構造は、グリースの密封性向上とフリクションロス低減、砂漠の砂の侵入を防ぐ役割を実現。
【Uリング】シールチェーン最大の問題点である重量増解決のためにレース用チェーンとして開発。XWリングの厚みが2.0mmなの対して、Uリングは0.8mm。ノンシールチェーンと同等の重量やチェーン幅を実現。
【UWリング】封入リップを3つにするトリプルバリア構造で、グリースの密封性向上とフリクション低減を実現。現在は、ロード/ オフロードを問わず世界最高峰のレースに認められている技術だ。
アールケー・ジャパン HISTORY
1947年 | 高砂鐵工㈱志村製造所内でチェーン部発足 |
1951年 | 高砂鐵工のチェーン部門が分離・独立して高砂チェン㈱設立 |
1953年 | オートバイ用「RKチェーン」製造・販売開始 |
1961年 | ホンダへOEM供給開始 |
1964年 | スズキへOEM供給開始 |
1965年 | ヤマハへOEM供給開始 |
1975年 | O RINGチェーンを開発。スズキの750cc量産車(GS750)に採用 |
1977年 | シールチェーンをレースに実戦投入。Bold’or24時間耐久レースでホンダ、 RCB1000がRK O RINGチェーンで優勝 |
1978年 | 鈴鹿8時間耐久レース第1戦で、ヨシムラGS1000がRK O RINGチェーンで優勝 |
1983年 | ゴールドチェーンの製造・販売開始 |
1983年 | WGP世界選手権でホンダのフレディ・スペンサーが、NS500でチャンピオンを獲得。以降、WGP&モトGPで’85年/’87年/’89年(ホンダ)、’93年(スズキ)、’94年~ ’03年/’11年/’13年~ ’19年にホンダでチャンピオンを獲得 |
1985年 | XW RINGを開発。XW RING採用のシールチェーンの製造・販売開始 |
1986年 | 1986-1989年のパリ-ダカールレースでホンダ・NXR750が4連覇達成 |
1989年 | 高砂製作所(リム製造)との合併で、㈱高砂アールケー・エキセルが発足 |
1991年 | ㈱高砂アールケー・エキセルと㈱タカテツ機器開発が合併し、㈱アールケー・エキセルが発足 |
1995年 | U RINGを開発。業界初のレーザー刻印を導入。カワワキへOEM供給開始 |
1997年 | スーパーバイク世界選手権でホンダのジョン・コシンスキーが、RVF/RC45でチャンピオンを獲得。以降、’00年/’02年(ホンダ)、’05年(スズキ)、’07年(ホンダ)、’13年/’15年~ ’20年(カワサキ)チャンピオンを獲得。ホンダ勢が’06 年までRVF/RC45 → VTR1000SPW→ CBR1000RRで鈴鹿8時間耐久レース10連覇達成 |
1999年 | UW RINGを開発 |
2004年 | ヤマハ GMT 94が世界耐久選手権(EWC)で優勝。以降、’24年までRKチェーン使用チームがチャンピオンを獲得 |
2010年 | 7月、㈱アールケー・エキセルから吸収・分割によりアールケー・ジャパン㈱となる |
2019年 | カワサキ・レーシング・チームが鈴鹿8耐で優勝。以降、’24年までRKチェーン使用チームが鈴鹿8耐を制覇中 |
「レースから製品へ」という、アールケー・ジャパンを端的に表すキャッチコピーが最新のカタログに。
(続く)
※本記事はアールケー・ジャパンが提供したもので、一部プロモーション要素を含みます。※掲載内容は公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。