マシン・オブ・ザ・イヤー2018
人生論的WGP500王者インタビュー⑤ケニー・ロバーツ

ラスボス・ケニー校長のバイク馬鹿一代

頂点を極め、ロードレース史にその名を刻みつけた男たち。荒れ狂う2スト500ccのモンスターマシンをねじ伏せ、意のままに操った彼らのスピリッツは、現役を退いて時を経た今もなお、当時の熱を帯びている。伝説の男たちが生の声で語る、あのライディングのすべて──。ヤングマシン’12年11月号掲載の「THE CHAMPION TECHNIQUE」復刻インタビューの最後を飾るのは、“キング”ことケニー・ロバーツ御大です。

この男が「キング」と称されるのは、世界GPで3連覇を達成したからではない。 ロードレースに革新的なライディングスタイルを持ち込んだからでもない。 ケニー・ロバーツの小柄な体には、みっちりと詰まっているものがある。 それは、確として揺るぎない信念と、バイクへの深い愛だ。 

15分バイクに乗るだけで 世界はすべてOKになる

 ── 今もバイクに乗るのが楽しくて仕方がないそうですね。

ケニー・ロバーツ(以下KR) 12歳の時から、私はバイクに乗り続けている。……ちょっと待て、50年も経つのか! 信じられない(笑)。

今もバイクを楽しんでいるが、毎日乗っているわけではない。だが、もしバイクを取り上げられたら、私の人生はそこで終わりだ。私は「モーターサイクル・パーソン」なんだ。

モトクロッサーにも乗るし、自宅のコースでダートトラックもする。イベントなどでレーシングマシンに乗ることもある。街乗りもするよ。クルーザーを持っているし、オフロードもオンロードも走る。

あらゆるジャンルのバイクが楽しいんだ。バイクはバイク、みんな同じだ。タイヤがふたつ、エンジンがひとつなら、私は何でも乗る。楽しむためにね。それが私の人生なんだ。

── そんなにもバイクを愛している理由を教えていただけますか?

KR それは無理だね(笑)。理由なんて自分でも分からないんだ。

でも、バイクは私を解放してくれるんだ。仕事のトラブルで腹が立って仕方がない時、15分バイクに乗るだけで、ヒュッ、すべてが消える。ひどい頭痛さえ治ってしまう。

どんなに難しい世界に生きていても、2時間もバイクに乗れればそれですべてOKだ。バイクは、私の内なるパワーの源なんだよ。

今もバイクに対する情熱を持っている。私の息子(ケニー・ロバーツ・ジュニア)は世界グランプリでチャンピオンになったが、私ほどの情熱は持っていなかった。今の彼は、バイクなしでも生きていける。私はそうではない。私はバイクに乗らなければならないんだ。

── ストリートを走る時は、何を感じているのでしょうか?

KR ひたすらリラックスしているよ。私はいいクルマを持っているし、クルマで出かけることもあるが、時間の無駄のように感じてしまうんだ。

どこかに行くならバイクの方が楽しい。新鮮な空気をヘルメットに受けながら、気持ちいい道を走るんだ。妻にとっても、バイクのタンデムシートの方がずっといいはずだよ。

── バイク乗りっていうのは、誰も同じなんですね……。

KR そうだと思う。みんな同じ情熱を持っている。それを説明するのはとても難しいことだ。

ひとたびこの乗り物を愛し、ライディングを愛してしまったら、もう戻れない。1、2時間も走れば、誰だって「ファンタスティック!」と言うに決まっている。

── 一方で、バイクには「危険」という側面もあります。

KR バイクでの転倒は避けられない。足を出さずに止まるだけで、ゴロンだ。危なくないとは言えない。

だが、危険なんてどこにでもあるものだ。今この部屋で転んで頭を打つことだってできるからね(笑)。危険はどこにでもあるが、自分次第で切り離すことができるんだ。

── 日本人はリスクを避けたがる傾向があります。だからバイクのように危険を内包する乗り物を敬遠しがちです。

KR 「バイクは危ない。だから乗るな」。それでは問題は何ひとつ解決しない。問題はバイクの危険性じゃない。必要なのは、ライダーが危険をコントロールできるようになるための教育システムだ。

経験のないライダーがいきなり速いバイクに乗るのは、非常に望ましくない。もし速いバイクに乗るなら、まずサーキットで学ぶべきだ。

ストリートでより安全に乗るために、サーキットでライディングを学ぶ。そうやって危険を減らしていく。日本のサーキットはもっと開かれた場になった方がいい。

ヨーロッパのサーキットは、週末、街乗りのライダーたちが走れるんだ。お金さえ払えばね。レースをしている人たちではない。ごく一般的な街乗りライダーだよ。

速い人も、遅い人もいる。女性も子供もいる。みんな同じ方向に走っているから、危険は少ない。日本にもそういうシステムが必要だと私は思う。しかるべき場所で乗り方を学べば、バイクはより安全に楽しむことができるからね。サーキットはもっと開かれるべきだ。

バイクは危険かって? ああ、危険だよ。だが、クルマだって危険だ。要するに、危険を減らすためにすべきことをすればいいんだ。

── バイクはリスクがあるからこそ、人間性を育むという面があります。この乗り物からは、危機管理や自己責任を学べる。

KR その通り。だが、そう考えられるのは年齢によるところが大きい。残念なことに、ティーンエイジャーの脳はそこまで成熟していない。

だからこそ、若者にライディングを教えるシステムが必要なんだ。「君は速くない」「君はバイクの乗り方を分かっていない」と分からせる。それが分かった時に初めて、彼らは安全に目覚めるんだ。

だから私は若者たちに、ダートでライディングを教えている。彼らはダートで何度も失敗し、自分がうまくも速くもないことに気付く。そしてコントロールの術を学ぶんだ。

教習所なんかなくして、ダートコースをたくさん作った方が、日本の バイク環境はもっと安全になるんじゃないかと思うほどだよ。

── 実現はかなり難しそうです……。

KR ああ、無理だろうね。ダートトラックは、何度も転んでケガをするようなものだから。

だが、教習所でのろのろ走っていても、バイクがどう加速するか、どう減速するか、どう乗ればいいか、まったくつかめないままだ。

安全なライディングを教えたいからと、「コーナーは5マイル(約8km/h)で曲がれ」なんて、バイクについて何も教えていないに等しく、まったく実際的ではない。

まずはバイクという乗り物の基本的な概念を学 ぶべきだ。標識がどうとかは、後回しでいい。乗り方をキッチリ理解してから、公道に出るべきだと思う。

人は確かにお金さえ払えばストリートバイクを買うことができる。しかし、乗り方を知らないままバイクを買い、公道を走るなんて、ブル・シット(クソ食らえ)だ。

教習所の走りなんて誰でもできる。でも公道でいきなり正面からクルマが向かってきたらどうする? どうやってブレーキを使えばいいか、バイクがどうスライドするか分からなければ、大問題だろう?

私の妻は日本の教習所で免許を取った。だが、彼女はバイクの乗り方をまったく知らなかったよ! 私は彼女のためにミニバイクを用意して、ダートコースを走らせた。スライドしたり転んだりしながら、彼女はバイクについてたくさんを学んだよ。バイクにどう乗ればいいのかをね。

── 日本人にはミスは恥だと考え、なかなか挑戦しない気質があります。

KR 練習でミスをしておいていざという時に助かるか、いざという時にいきなりミスをして死ぬか、どっちを選ぶかという話なんだよ。

私だってミスをする。3年に1回は転ぶんだ。若いライダーたちは1日に5回は転ぶけどね(笑)。でも、そんなことは構わない。大事なのは、転倒しないことじゃない。転倒を減らしていくことだ。いいかい、私でさえまだ転ぶんだよ。

── だからバイクを愛し続け、乗り続けるんですね。

KR その通り。同じサーキットを何周走っても、すべての周が違い、すべてのコーナーが違うんだ。やめる理由がない。

今、ロードレーサーではかつてほど速く走れないが、頭は昔と同じように働いている。ダートトラックでは、相変わらず攻め続けている。

私は限界まで攻めるのが好きだ。

Kenny Roberts/1951年12月31日生まれ アメリカ出身 ヒザ擦りハングオフを筆頭に、スリックタイヤの導入など現代のロードレースで一般的となったライディングスタイルを確立したのがケニー・ロバーツだ。AMA(全米モーターサイクル協会)グランドナショナル選手権において’73年当時で史上最年少の21歳でチャンピオンとなった成績を皮切りに、デイトナ200マイルレースで3度の優勝(’78年、’83年、’84年)のほか、WGP500でもデビュー後3年連続チャンピオンという偉業を達成し、日本でもケニー・ロバーツのファンになったライダーは多い。’83年のWGPはフレディ・スペンサーの台頭により激闘を繰り広げ、2ポイントの差で2位に甘んじ、その後WGP引退を宣言。以降はチーム監督や後進を育てる指導者として手腕を発揮している。

●インタビュー:高橋 剛

●インタビュー撮影:真弓悟史

●レース写真:ヤマハ発動機/YMアーカイブス

●取材協力:株式会社モビリティランド/ヤマハ発動機株式会社

高橋 剛

高橋 剛

記事一覧を見る

カート上がりのバイク野郎。心震わす原稿が得意で、あのスポーツ名門誌・Sports Graphic Numberにも寄稿したりしなかったり。セッティングさえ出れば怖いものなしの隠れ文豪。

マシン・オブ・ザ・イヤー2018