細部までこだわったアドベンチャー軽二輪

【試乗速報!】ホンダ「ADV150」はクラスを超えたライトウェイトSUVだった/PCX150も比較

’20年2月14日発売のホンダADV150に試乗したのでレポートをお届けしたい。その成り立ちはPCX150をベースとしながらオフロードテイストを与え、プレミアムなコンパクトSUVとして仕上げるというものだったが、出来栄えは想像以上。この車格では今まで体験し得なかったライディングの喜びに満ちている。


●写真:真弓悟史/ホンダモーターサイクルジャパン ※本内容は記事公開日時点のものであり、将来にわたってその真正性を保証するものでないこと、公開後の時間経過等に伴って内容に不備が生じる可能性があることをご了承ください。※掲載されている製品等について、当サイトがその品質等を十全に保証するものではありません。よって、その購入/利用にあたっては自己責任にてお願いします。※特別な表記がないかぎり、価格情報は税込です。

試乗する前にはバイクをあちこち触ってみるのだが、そのなかで小さく感動させられる部分があった。燃料タンクのリッドを開けるためのスイッチがメインスイッチ横にあり、これを押すとバネ仕掛けでリッドが開く。これはPCX150だけじゃなく、いくつかのスクーターと同じ方式なのだが、ADV150のリッドはダンパーの抑制が効いたスムーズで重みのある開き方をするのだ。大したことじゃないと思われるかもしれないが、こうした細かいディテールの積み重ねが全体の質感を構築するものだと筆者は考えている。

同じような上質感はPCXのグローブボックスにも感じられるが、フューエルリッドについてはやや軽薄な感じがあった。我ながらずいぶん小さなところに注目しているものだと恐縮しつつも、開発者にその旨を話してみると、確かにそのリッドの部分の仕上げにはこだわったのだという。ヒンジとダンパーはPCXと同じ部品を使ってはいるが、リッド自体の重量を調整することで、軽薄でも鈍重でもない動きのバランスを狙ったのだそうだ。

フロアトンネル中央にあるフューエルリッドを開けると、燃料タンクキャップが現れる。

車両に跨ってみると、PCX比で+31mmとなるシート高795mmだけあって、足着き抜群とはいかないが、シート前半部分からサイドにかけて形状を工夫してあり、数値からイメージするよりは余裕がある。着座位置は高く、やや前方に。ハンドルバーはステアリング軸からのオフセット量が少なめで開き気味となっており、PCXの低く後傾したシートや絞り気味のハンドルバーとは好対照だ。上半身はより直立した姿勢になり、積極的に操っていけそうなライディングポジションである。

このライディングポジションと、足まわりの設定が見事に調和している。前後サスペンションのストロークはPCXに対して前100→130mm/後90→120mmと延長され、併せてスプリングレートとダンピングもそれぞれ強化してあるという。これにより、ライダーは常にバイクの中心をとらえやすい位置に着座しながら、上質にストロークする前後のサスペンションをそれぞれ(フィーリング上では)均等に使って走ることができる。シンプルに言えば、バイクの動きがわかりやすくて、操ることが気持ちいいのだ。

フロントフォークのストローク量は130mm。フロントブレーキはウエーブディスクに2ポットキャリパーを組み合わせている。ABSはフロントのみ。

ハンドリングを比較すると、PCXは全体的に低く短く、挙動はクイック。後傾気味のシートでリヤタイヤの直上に座っているような感覚があり、手前に絞られたハンドルバーとあいまってフロントタイヤが遠くに感じられる。寝かし込みとターンインはクイックだが、あくまでも昔ながらのスクーターの延長線上だ。街乗りやワインディングでキビキビとは走れても、外乱を気にせずアベレージスピードを稼ぐような芸当はできない。

これに対し、ADV150は落ち着きと手応えがあるハンドリングだ。PCXよりも重量が増すとともに重心も高くなり、これにロングストロークサスが組み合わさることで、全体の動きにゆったりとした余裕が生まれている。ブレーキを使ってフロントフォークを沈めたり、リヤタイヤに荷重を載せながらアクセルを開けていく場面などでも、“操っている”という実感を楽しめて、スポーツバイクのようにピッチングを使って走ることも可能。さらにコーナリング中にギャップを拾ってもストロークには奥が残っていて、作動性が失われることもない。単なるストロークアップだけでなく、リザーバータンク付きのリヤショックを採用したことなども功を奏しているのだろう。

リヤのホイールトラベルは120mm。PCXの90mmから+30mmとなっているので、シート高の+31mmと比較すると、ほぼ比例して上がっていることがわかる。ちなみに最低地上高は+28mmの165mm。

ブレーキのフィーリングもいい。十分な制動力とコントロール性を両立していて、とても45万円そこそこのバイクとは思えない。房総のワインディングにおいて、さほど飛ばしていないにもかかわらず、ごく軽い引きずりブレーキを残しながらフロントタイヤの行き先をコントロールして走行ラインを組み立てる、といった操る楽しみが得られてしまうのだ。オフセットの少ないハンドルバーによってフロントタイヤの向きをクリアに感じ取れるほか、ワンサイズ太くなった前後タイヤは接地感や安心感をもたらしている。特にリヤタイヤはインチダウンしたことで外径をPCX同等に維持しながらボリュームアップ。これが吸収性の向上にも一役買っている。ディスク化されたリヤブレーキも同様に良好なフィーリングだった。

リヤはPCXのドラムに対しディスク化。マフラーはアップタイプになっている。

面白かったのは71mm幅で上下できるスクリーンだ。上げてある状態でずっと走っていたのだが、これを下げてみると明らかに風の当たり方が変わる。特に試乗日は気温が低かったので、如実に寒さが変化した。それだけではなく、スクリーンを下げるとわずかだが確実に、ハンドリングがクイックになる。後で開発者に聞いたところ、風を受ける位置とともに重心もやや変化することでハンドリングに影響があるのだという。筆者の好みは上げた状態での防風性と落ち着きのあるロール特性だったが、メーカーとしてもそちらが標準と考えているとのこと。ただ、夏場に爽やかな風を浴びたいとか、街乗りで機敏に走りたいといった場面では下げたほうが合うだろうな、とも思えた。ちなみに、下げた状態だとPCXのスクリーンと同等の高さになるそうだ。

可動式スクリーンは上と下の2段階切り替えで、その高低差は71mm。ウインドプロテクションだけでなくハンドリングにもわずかながら影響あり。

ハンドリングを総括するなら、前後バランスのよさに尽きる。車体中心をとらえやすい着座位置、偏りのないピッチング、接地感……。あえて言いがかりをつけるなら、コーナー中のギャップではリヤのほうがややバタつきやすいが、それは“スポーツバイクとして見れば”というハナシ。150ccクラスのスクーターという領域を超えているからこそ、さらなる注文をつけてみたくなる、という程度のことだ。

エンジンについては、全体にPCX150よりもワイルド感が増している。低速トルクが向上しているので路面を蹴り出す脈動感が強まっているほか、アップマフラーの影響か、耳に届くサウンドも少しだけ賑やかだ。反応がシャキッとしているおかげでUターンもしやすく感じた。

こうしたグッドバランスをつくり上げた秘訣はなんなのだろう。その理由は開発メンバーにあった。まずデザインはタイにある日本人×タイ人の混成チームで行い、X-ADVの流れを汲みつつも、従来の日本人だけのチームではなかなか出てこない大胆なルックスを与えることに成功。そして、これにふさわしいハンドリングおよび動的質感、外観などのディテールを追求した開発グループのなかには、2016年に発売された新世代アフリカツイン(CRF1000L)を手掛けたメンバーも多くいるのだという。「たまたまそれらの人々の手が空いていたから」と冗談めかしてはいたが、人の手が入ったアナログ感覚の仕上がりが評価されたのがアフリカツインである。どこかそれに通じるフィーリングを、150ccの軽二輪スクーターであるADV150にも感じずにはいられなかった。

オートマチックエンジンを採用した、身の丈サイズのアドベンチャーマシン。もちろんフラットダート程度なら難なくこなすADV150は、すでに販売計画を上回る受注を発売前に達成してしまったという。しかし、中身の仕上がりもその注目度にまったく負けてはいない。

デザインはタイ主導、開発には新世代アフリカツインの初期メンバーが集う

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