フレームの深〜いお話

【青木宣篤の上毛GP新聞】MotoGPマニアック解説! エンジンパワーが車体に及ぼす影響とは?

ヤングマシン本誌に連載中の「上毛GP新聞」が登場! よりタイムリーにお届けすべく、発売から鮮度が落ちないうちにWEBヤングマシンにも展開します。さて、第12戦決勝ではスズキのアレックス・リンスが優勝したが、そこには奇跡のバランスがあった。レースではエンジンパワーがある方が前に出やすいのは事実。だが、パワーが難しさをもたらすこともあるという……。

スーッとリヤを滑らすのが「いいエンジン」

レーシングライダーなら、誰だってエンジンパワーを求める。ストレートでライダーができることといえば、コンパクトに伏せてスロットルを開けるだけ。ライバルを抜けるかどうかはパワー次第だ。

だが、パワーがすべてにおいて良い方向に作用するとも言いきれない。パワーが上がればそれを受け止めるフレームの剛性も上げなければならない。そして多くの場合、フレーム剛性を上げると旋回性が落ちてしまうのだ。

逆に、パワーの少ないエンジンの場合はフレーム剛性が低くて済むため、旋回性が高くなりやすい、ということになる。

いい例が第12戦イギリスGPだ。スズキのリンスが旋回力を生かして優勝し、パワフルなホンダのマルケスが2位。3位もレスパワーとされるヤマハのマーベリック・ビニャーレスだ。

ライバルと比較するとパワーはやや劣るものの、そのおかげで高い旋回力を得ているスズキとヤマハが好調だったというわけだ。

「それならエンジンパワーなんてなくてもいいじゃん!」という話……にはならない。シーズンを通して見ればストレートが長いコースもあるからやはりパワーはあった方がいい。だが正確には「適正なパワーがあった方がいい」のだ。

イギリスGPではパワーで劣るスズキがパワフルなホンダを破った。コースとの相性もあるが、フレームとのバランスも大きく影響する。

これはミシュランタイヤになってから顕著な傾向だが、レース前半はハンドルを操作しバンクさせることでマシンを曲げるのに対し、レース後半はリヤタイヤをほどよくスピンさせて滑らせながら向きを変える走りが有効となる。

イメージしていただきたい。ライダーのスロットル操作と電子制御がビタリとハマり、スロットルを開けるとスーッとキレイにリヤが流れ、キレイにバイクが向きを変えてコーナーを立ち上がる様子を。実にエレガントではないか。

しかもスピンしながら=エンジン回転数が高いので、脱出速度自体も高まる。一挙両得なのだ。

この「レース後半になってからのリヤタイヤスライド走法」をうまく行うためには、今のスズキやヤマハぐらいのパワー感、パワー特性、そしてそれに合ったフレームがピッタリ来ているようだ。

一方マルケスのリヤの流れ方は、「スーッ」ではなく、「ズッ、ズッ」という感じ。いくらパワーがあっても、あれではさすがのマルケスもお手上げだった。

【悪い剛性と良い剛性】ヘッドパイプに加わった力がシャシー全体に伝えられるのが「うまくストロークして力をいなす車体」。

またホンダはエア吸入方法の変更に伴って、ヘッドパイプまわりの構造変えている。簡単に言えば穴が空いたのだが、これが扱いにくさを生んでいる可能性がある。

利いてくるのは、フルバンクで旋回中に外乱が加わるといった、ヘッドパイプに力が加わる場面だ。

剛性が十分なら、力はうまくフレームへと逃げ、結果、シャシー全体で外乱をいなしてくれる。だが剛性が不十分だと、ヘッドパイプ自体がクシャッとなり(実際はつぶれません。あくまでもイメージの擬音です)、フレームに力が伝わっていかないのだ。

ヘッドパイプだけがフルボトムしている状態、といえば分かりやすいだろうか。かえって分かりにくいだろうか(笑)。いずれにしても、フロントからスコッとイッてしまう可能性が高まるのだ。

サスペンションがストロークし、タイヤがたわむことまではハッキリ目に見えるが、強固なシャシーのたわみは想像しづらい。その「見えにくいシャシーの動き」が確実に勝負を左右しているのが、今のモトGPの現実だ。

TEXT:Go TAKAHASHI

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