ほぼ同一スペックの懐古系ミドル2車を乗り比べ

XSR700 vs スクランブラー・マッハ2.0【日伊ネオクラ比較試乗インプレ】

YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
流行するネオクラシックの中でも「軽量&扱いやすいモデル」として人気を集める、日本とイタリアの代表選手「ヤマハXSR700」と「ドゥカティ スクランブラー・マッハ2.0」を試乗してみた。

ヤマハXSR700:懐古と洗練の競演

レトロさと最新技術を融合した「スポーツヘリテイジ」=XSRの第2弾。初代MT-07をベースに、アルミの質感を活かしたタンクや丸眼ヘッドライトなどの専用外装を与えた。

YAMAHA XSR700
YAMAHA XSR700:688cc 73ps 186kg ●色:赤、灰 ●税込車両本体価格:89万9640円

堅実な装備ながら個性を演出

YAMAHA XSR700
(左)ヘッドライトはハロゲン。φ41mm正立フォークとリンク式モノショックを採用し、Fブレーキにφ282mmのWディスク&対向4ポットを備える。(右)実用域のリニアなトルクと軽量コンパクトを追求した688ccのDOHC4 バルブの270 度クランク並列ツイン。スクランブラーより115cc少ない排気量ながら、同一の73psを発生する。
YAMAHA XSR700
(左)メーターにはギヤポジや時計を表示のほか、コーヒーカップ状の燃料計も示す。 (右)シートはスエード調など3種類のレザーを使い分け、他モデルにないこだわりを感じる。

ドゥカティ スクランブラー マッハ2.0:ロースピードの新境地

ドゥカティがネオクラに初参入した意欲作で、’15年にデビュー。ベーシック仕様のアイコンに対し、低めのアップハンや厚みのあるシート、ローランドサンズによる西海岸風ペイントが特徴。

DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0:803cc 73ps 186kg ●色:白 ●税込車両本体価格:128万6000円

贅沢にレトロ感を追求

DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
(左)外縁にLEDポジションを備えるヘッドライト。φ 41 mm倒立フォークとモノショックはともにKYB製。F18インチにブレンボ製の対向4ポットラジアルキャリパー+φ330mmディスクと豪華だ。(右)モンスター796由来の803cc空冷LツインSOHC2バルブをリファインして搭載。クラッチは湿式だ。ステンレス製エキパイのジョイントにスプリングを使うなど芸が細かい。
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
(左)右にオフセットされ、液晶内にバーグラフ式のタコ、時計など表示。(右)シートは前側にタックロールを施す。

ライディングポジション比較

YAMAHA XSR700
XSR:やや幅広のアップハンドルで上体がリラックスしている。ヒザの曲がりも緩やかで自然だ。分厚いシートのため、着座位置は高め。足着きは両つま先の腹がしっかり着くので安心だ(身長168cm 体重61kg)。
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
スクランブラー マッハ2.0:XSRよりさらにハンドルが幅広く、グリップが少し遠め。上体はわずかに前傾し、ややヒザが曲がる。シート高はXSRより45mm低く、両足のカカトがベッタリ着く(身長168cm 体重61kg)。

比較試乗インプレッション:両者ともに扱いやすい。より従順なのはXSR

YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

【今回のテスター】(左)丸山 浩:ご存じ本誌メインテスター。プロライダーやウィズミー会長として多方面で活躍中。MTとXSRがお気に入りで、Lツインは水冷より空冷好き。(右)沼尾宏明:バイク雑誌を中心に辣腕を振るうフリーの編集&ライター。腕前はフツーのツーリングライダーだ。テイストのあるバイクを常に物色している。

この2台、奇しくもスペックが似ている。――ヤマハXSR700が水冷並列2気筒688cc、ドゥカティ・スクランブラーが空冷L型2気筒803ccと異なるものの、最高出力73ps、車重186kgと全く同一。最大トルクはXSRが0.1kg-m大きい6.9kg-mだが、ほぼ同じだ。違いを見極めるべく、興味津々でテストを始めた。

まずは外観。2台ともに懐古的なイメージを取り入れつつ、現代のテイストを加えた”ネオクラシック”のジャンルに属する。とはいえXSRは、クラシカルな丸眼ヘッドライトやメーター、水平基調のデザインを取り入れつつ、モダンにアレンジしているのが特徴。特定のモデルをフィーチャーせず、積極的に新しい造形を試みているのがいい。

スクランブラーは、’62年に登場した同名のモデルが元ネタ。「デビュー当時から現代まで生産され続けていたら?」というテーマでデザインされた。メーカーカスタムが多数存在し、「マッハ2.0」は’60年代のカフェ=マッハ1がモチーフだ。幅広で若干前傾気味のハンドルといい、フラットトラックレーサーの雰囲気がある。2台とも細部にまでコストがかけられ、質感は申し分なし。その上でデザインの方向性が違うのだ。

YAMAHA XSR700
YAMAHA XSR700

走ってみると、似通ったスペックとは異なり、なかなか好対照。XSRは実に現代的、スクランブラーはレトロな趣を重視している。

XSRに搭載されるMT-07ベースの高効率なエンジンは、発進や低速時のレスポンスが滑らか。4000〜8000rpmの幅広い回転域ではスムーズにトルクが立ち上がる。さらに8000rpm以降でギュンと伸び上がり、扱いやすくもスポーティなキャラクターだ。一方、ゼロ発進や街中で流す場面では味わいがきちんとあり、柔らかい鼓動感が心地いい。また、アップハンドルと肉厚なシートも旧車らしい雰囲気だ。

スクランブラーは、空冷2バルブの濃いテイストが特徴。回転上昇がフラットではなく、2000rpmでズダダッと激しい鼓動感とサウンドを伴いながら、パンチのある加速を見せる。以降は振動が収まって滑らかに回り、5000rpm辺りから力感が増す。発進や極低速でガッと前に出たり、エンストしそうな場面もあるが、昔のドゥカのような不安定さはなく、熟成された味わいとなっている。やや慣れは必要ながら、基本的に扱いやすい出力特性だ。

街乗りでは、車重の数値以上にXSRを軽快に振り回せた。着座位置が高めで、車格が大きく感じるものの、ハンドル切れ角が大きく、小回りも得意。ソフトなサス設定と柔らかい鼓動のエンジンが相まって、やさしくスムーズな走りが楽しめる。

スクランブラーは両足がベッタリ接地する足着き性が魅力。ムラのある出力特性に加え、幅広のハンドルと少ないステアリング切れ角によりUターンで若干気を遣う。とはいえ、重心が低く安定感は抜群。空冷Lツインをじっくり味わいながら走るのに街中は最適なステージだ。

守備範囲が広大なXSR。スクランブラーは旧車的

続いて高速道路。6速100km/hで、XSRは4000rpm、スクランブラーは4200rpm。鼓動感があるスクランブラーに対し、XSRは振動が少なく平和だ。ライポジはXSRの方がヒザの曲がりが緩く、タンクとのフィット感も良好なので長距離がラク。その一方でサス設定が柔らかく、カットビだと若干足元がフワフワしてくる。

対してスクランブラーは直進安定性とシートの座り心地が優秀。低重心とフロント18インチによるドッシリ感が頼もしい。足まわりもソフトながら、ダンパーが利いている。シートはソフトかつ座面が広いため、ロングでもお尻が快適だ。

ただし、エンジンの速度レンジとしては80km/h程度までが得意。XSRはより上の幅広い領域までカバーする性格だ。僕だったら、高速道路を淡々と走りたい時はXSR、下道でトコトコ長距離を走るならスクランブラーを選ぶかな。

DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

峠に関しても、ハイペースなXSR、流して楽しむスクランブラーという図式は同様。XSRは重心が高く、高回転でパワフルなエンジンが実にスポーティ。柔らかいサスを丁寧に扱うことで旋回力を引き出せる。また、同じギヤでも大小の様々なコーナーに対応できるほど、フレキシブルな出力特性が道を選ばない。

スクランブラーはF18インチによる倒し込みの軽さと安定感が持ち味だ。車体が寝てもステアリングが大きく入らず旋回力はそれなりだが、安心感は抜群。ラフに扱っても恐さがなく、これも旧車っぽい。XSRよりトルクが下に振ってあり、6000rpm以上引っ張っても伸びないので、肩の力を抜いて流したい。

乗り手やステージを選ばずない万能選手がXSR、ややクセがあるもドゥカらしいテイストが楽しめるのがスクランブラー。その性格は、レトロながら自由なデザインのXSRと、昔ながらのスタイルのスクランブラーという外見にもシッカリ現れている。2台はスペックこそ似ていても全く別の魅力を放っているのだ。

シチュエーション別の印象は?

街乗り

DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

●丸山「XSRは数値以上に軽快感アリ」
XSRの乗りやすさ、扱いやすさを発揮できるステージ。スクランブラーと車重は同一ながら、より軽快に駆け回れる。スクランブラーは低速時に若干ドンツキがあるが、鼓動感を存分に味わえるので移動自体が楽しい。

●沼尾「ドゥカの鼓動が存分に堪能できる」
軽い車体と従順なパワーによりXSRは街中の足として優秀。着座位置が高く、視界が広いのもマル。ドゥカは乗ってすぐ「ドゥカだなぁ」と思える脈動感が楽しい。身長177cmの私には2台とも足着きに不満ナシ。

高速走行

YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

●丸山「XSRは楽々、ノンビリならドゥカ」
エンジン&車体とも高い速度レンジに対応できるXSRは、高速によく乗る人にはオススメ。ドゥカは味わいを楽しみながら旅ができる。もちろん高速もOKだが、飛ばすよりノンビリ旅を楽しむ方が似合う。

●沼尾「ロングランならXSRを選びたい」
XSRはもう少しサスに落ち着きが欲しいけど、高速でもソツがない。スクランブラーは安定感とシートの座り心地が良好で、リラックスして走れる。ただ6速100km/hで手足に微振動が発生するのが気になった。

ワインディング

YAMAHA XSR700
YAMAHA XSR700

●丸山「腕次第で旋回力を引き出せるXSR」
XSRはソフトなサスを抑えることで高い旋回力を引き出せる。スクランブラーはリヤから曲がる、昔ながらのハンドリングだ。ブレーキは、XSRがシャキッとしたタッチで、ドゥカは穏やか。総じてスポーティなのはXSRだ。

●沼尾「ドゥカは低重心で安心感がある」
車体が軽いXSRはスパッとバンクできるけど、安定させるにはテクが必要。リーンアウトで流すとシックリくる。ドゥカは回転数が落ちるとギクシャクする場面もあったが、車体に安定感があり、安心してパンチ感を楽しめる。

タンデム:リヤシートの座面は2台とも快適

DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

XSRはややタンデムシートの後部が狭いが、ソフトな座面で安定感がある。持ち手がなく、サスが沈み込むのは気になるところだ。スクランブラーはグラブバーを装備し、後部座席も広々。ライダーとの一体感もある。ただし低速域でギクシャクしやすく、アクセルの開閉に気を遣う。

取り回し:手が届きやすいのはドゥカ

YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
YAMAHA XSR700(手前)

2台とも400cc並みに軽いので押し引きは楽々。特にステアリング位置が低く、手が届きやすいスクランブラーがやりやすく感じた。ピレリ・ファントムのゴツゴツしたパターンに転がり抵抗が若干あるが、車格がコンパクトなのもいい。身長があれば、あまり差はないだろう。

結論:自分がバイクに合わせるのか、バイクが合わせてくれるのか

XSR700は、「ネオクラ」というジャンルに捕らわれず、新しさを追求したバイクだと思う。往年の名車に媚びることなく、新たなデザインを生み出しているし、それに反して走りもスポーティ。乗り手自身が味を出していける。

スクランブラーは、外観、乗り味とも本物のビンテージ感が楽しい。ただし用途はある程度限定される。1台でマルチに使いたいならXSR、現代の技術で旧車の雰囲気に酔いたい人はスクランブラーがオススメだろう。

乗る際の服装もXSRは自由。スクランブラーは似合うファッションが決まってくる。バイクが乗り手に合わせてくれるのがXSR、乗り手がバイクに合わせるのがスクランブラーと言える。

質感に関しては2台とも抜群なのに、この価格は立派。特にXSRはアルミ製タンクカバーをヘアライン仕上げにするなどの手間もかけているのに、そのコストパフォーマンスは圧倒的だ。

YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0
YAMAHA XSR700 vs DUCATI SCRAMBLER MACH 2.0

主要諸元比較

車名XSR700SCRAMBLER
全長×全幅×全高(mm)2075×820×11302100〜2165×845×1150
軸距(mm)14051445
シート高(mm)835790
キャスター角(度)/トレール量(mm)25°/9024°/112
車両重量(kg)186
エンジン型式水冷4スト並列2気筒DOHC4バルブ空冷4ストV型2気筒OHC2バルブ
総排気量 (cc)688803
内径×行程(mm)80×68.588×66
圧縮比11.511.1
最高出力(ps/rpm)73/900073/8250
最大トルク(kgf・m/rpm)6.9/65006.8/5750
燃料タンク容量(L)1313.5
変速機形式6段リターン
ブレーキ前Wディスクディスク
ブレーキ後ディスク
タイヤサイズ前120/70R17110/80R18
タイヤサイズ後180/55R17
税込車両本体価格89万9640円128万6000円

●まとめ:沼尾宏明 ●写真:真弓悟史
●取材協力:ヤマハ発動機販売
※ヤングマシン2019年1月号掲載記事をベースに再構成

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